更年期と女性ホルモン
女性の更年期障害治療に高い効果がある
女性ホルモン補充療法『HRT』の最新事情
先頃、更年期障害の治療薬で新しいタイプのものを開発する研究が 進められているというニュースが新聞に取り上げられた。
では、現在の更年期障害治療には、どんなものがあるのだろうか? 今回はシリーズ第1回のガイドラインを受け、具体的な治療法に迫る。
女性ホルモンと更年期
女性ホルモン補充療法について、コスモス女性クリニック院長の野末悦子医師に話を伺った。まずは、女性ホルモンが何であるかを理解しておく必要があるだろう。そもそもホルモンというのは、体内の各器官が連絡を取り合って、それぞれの働きを調整するために血液中に分泌される物質のこと。
中でも、排卵や月経などをコントロールし、女らしさを作っているのが女性ホルモンで、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がある。この女性ホルモンは思春期から分泌が増え、20〜30代でピークを迎え、40代半ばを過ぎると減少していく。
減少の度合いは、卵胞ホルモンより黄体ホルモンの方が激しく、2種類のホルモンの比率が変化してしまう。しかも、女性ホルモンが減ることによって、これの分泌を促す性腺刺激ホルモンが多量
に送られ、過剰となってしまう。
このように、ホルモンのバランスが崩れると、体内ではバランスを修復する働きがある。この修復過程がスムーズに進めば、更年期も気づかないうちに通
り過ぎてしまうが、実際には卵巣機能が低下するダメージが大きく、修復作業が追いつかない。このひずみによって、さまざまな更年期障害が引き起こされる。
女性ホルモン補充療法の効果
更年期障害の治療にあたっては、いわゆる対症療法が取られる。更年期障害は老化に伴って現れる症状で、老化を止めることはできないため、根本治療は不可能な訳だ。対症療法としてあげられるのは、大きく分けて3つ。
まず、心理的なものの影響が強いときに行われる心理療法。問診でもカウンセリング的な要素が大きが、必要に応じて診療内科や精神科、神経科の治療を受ける事になる。また、自律神経のバランスを正常化して軽い更年期症状を改善したり、成人病予防やストレス解消にもなる運動療法もある。
そして、更年期障害に物理的に働きかけるのが薬物療法。ホルモンの変調が自律神経の乱れを引き起こしているため、自律神経の中枢に直接働きかける自律神経調整剤をはじめ、精神安定剤や抗うつ剤など、症状に合わせた薬が用いられる。特に更年期障害の改善に効果
を上げているは、漢方薬とホルモン剤だ。
ホルモン剤は、変調をきたしたホルモンを外から補うことによって、自律神経の乱れを整えて行こうとする治療法で、かつてはエストロゲンと男性ホルモンとの混合ホルモン剤が使われていた。男性ホルモンは活力をつけるために混ぜられており、声が太くなったりスネ毛が濃くなったりという男性化が副作用として見られる場合もあった。ホルモン剤は筋肉注射が主流で、更年期障害の一時的な症状改善を目的としたもの。
現在、主流となっているのは、男性ホルモンは使わず、女性ホルモンだけを用いる女性ホルモン補充療法だ。これは、体内で不足している卵胞ホルモンと黄体ホルモンを外から補い、更年期障害のさまざまな症状を改善するだけでなく、骨粗鬆症や動脈硬化など、卵胞ホルモン(エストロゲン)が長期的に不足することによって起こる更年期以降の慢性症状を治療したり、予防することもできる。ここ数年、女性ホルモン補充療法が注目を集めてきたのも、こうした効果
によるところが大きい。
HRTはこわくない
女性ホルモン補充療法による治療効果の高さは、前段でも述べた通りだが、ホルモン薬を使うことに抵抗感をもつ人がいるのも事実なようだ。その辺について、野末医師はこう語る。
「クリニックに来院された方で、漢方治療が受けたくて外国からわざわざ帰って来たという人もいました。外国ではホルモン補充療法が常識的に行われているのに、それを拒否しているわけです。
これはピルを使いたくないっていう人が多いのと同じで、十分な説明がないために正しく理解していないのだと思います。そのせいでホルモンは何となく異物で、自分にとって使うと体に悪いとか、毒を使っている感覚を持ってしまうんですね」。
このように、一般に『ホルモン補充療法がこわい』といわれるのには、原因と考えられる事実も過去にあったという。
「女性ホルモン補充療法というのは、欧米では30年以上も前から実践されていて、当時は卵胞ホルモンだけを単独で用いてたんです。そうすると、子宮体ガンになる人が少し増えてしまって、これは大変というニュースの方が日本に伝わってきたのね。その印象が根強く残っている部分もあるのだと思います」。
子宮体ガンは、卵胞ホルモンが過剰な状態で発症することが解明され、閉経後数年間が非常になりやすいといわれる。卵胞ホルモンだけを補充するのは、これと同じ状態を作ることになり、子宮体ガンになる人が増えたのも、もっともな結果
だったという訳だ。その後の研究で卵胞ホルモンの過剰な作用を抑える黄体ホルモンを加える事で、子宮体ガンの発症を逆に減少させるというデータも出ている。ただ、乳ガンに関しては、専門家でも意見が分かれ、はっきりとした結論は出されてはいないが、
「乳ガンについては、長期使用の場合に若干増えるという報告がされていますが、あくまでも発症率であって、死亡率ではないことを念頭に置いてください。生存率という観点からみれば、療法を受けている人のほうが長生きです」
という、メリットは見逃せないところだろう。
卵胞ホルモンだけを用いる療法をERTと呼んでいたのに対し、黄体ホルモンもあわせ2種類の女性ホルモンを補充する療法はHRTと区別
されており、現在行われているのはHRTの方である。
HRTの薬も進化する
女性ホルモンを補充する薬には、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類がある。現在、黄体ホルモンは飲み薬にのみとなっているが、卵胞ホルモンには貼り薬もあり、2つのタイプから選択できる。
「HRTでは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを組み合わせて使うのですが、卵胞ホルモンの飲み薬も数種類あります。胃や肝臓が丈夫な人は飲み薬で全く問題はないのですが、実際には肝臓に多少の障害がある人や薬を飲むと胃の調子が悪くなるような人もいるんですね。
そういった人のために貼り薬が開発された訳です。初期のタイプだと、ホルモンをアルコールに溶かしたゼリーが入っていたので、アルコール過敏症の人は使えない。そこで新しくシールタイプが登場し、ホルモンの用量
や溶かし方、ノリの配合が違うものが何種類かあります。
ただ、貼り薬は24時間とか、48時間とか貼っていないとダメなんです。貼りっぱなしなので、絆創膏などでかぶれる人には使えません。ノリの強いものならはがれにくいですが、洋服の上げ下げで落ちてしまったりもします。
ヨーロッパでは、もう一つ塗り薬があるんです。これだと吸収されるのに、だいたい10分くらい。皮膚の表面
に残ってもベタベタしないし、飲み薬と違って皮膚から吸収されるので胃や肝臓にやさしい。ずっと貼っている煩わしさがないのが特徴となります。
私も実際に使ったことがありますけれど、使い心地は悪くないです。日本でも認可されれば、利用者としての選択の幅が広がっていいと思いますね」。
HRTを受けるには
実際に、HRTを受けたい場合は、ホルモン補充の薬を使用するのに医師の処方箋が必要不可欠となるため、更年期外来のある婦人科で受診することになる。どこででもHRTを行っているわけではないので、事前のリサーチも必要だ。
また、女性ホルモンが低下している誰もが、HRTを受けられるというわけではない。乳ガンや子宮体ガン、重い肝機能障害がある人のほか、絶対に受けられない訳ではなくても、慎重にするべき病気もある。いずれにしても、HRTにあたっては、体の機能や健康状態の検査、医師の指導が必要となる。
Information
コスモス女性クリニック
院長 野末悦子医師(医学博士)
HRTをはじめ、漢方を取り入れた更年期治療で知られる野末悦子医師が常駐するクリニック。診察室も女性ならではの配慮を感じさせる作りとなっている。医療を身近に考え、学習会など開催するコスモス友の会も組織されている。
[住所]神奈川県川崎市中原区宮内1-8-3
ハウズクリニック4F
[お問合せ]TEL/044-751-0710
FAX/044-751-0710
[診療時間]9:00〜12:00
14:00〜17:00
土曜 9:00〜12:00
日曜・木曜・祝日および
第1・3水曜休
※電話による完全予約制
[保険の可否]可
JR・東急東横線武蔵小杉駅
1番バス乗り場から中原駅行き
市営バス上河原バス停下車すぐ
あれっ!?
何かヘンだな……と思ったら
一日も早くプロのいる更年期外来へ!
多種多様な症状が全身に現れる更年期障害を効果的に治療するなら、産婦人科の更年期外来を訪れるのが得策だ。更年期外来というと何か特殊なものと感じるかもしれないが、身構える必要はない。
まず、はじめにSMIチェック表を記入し、更年期症状の度合いを測る。そしてホルモンの不足やコレステロール値をみるための血液の検査、子宮ガンや乳ガンの検査のほか、エストロゲンが深くかかわっている骨密度を調べたりと、必要に応じた検査も行う。そして、何よりも大切なのがカウンセリングだという。
「更年期障害になる原因を考えると、3つのファクターが考えられます。第一に上げられるのがホルモンが欠乏すること。閉経すると卵巣が働かなくなるわけですからホルモンが減る。これは全員が通
過する過程なのに、つらい人と、それほどつらくない人がいるわけでしょう。
そこで出てくるのが個人の環境。夫の理解がないとか両親の介護だとか、その人が抱えているストレスの大小で症状が変化します。もう一つは、その人のキャラクター。物事に対する受け止め方は、性格によって違いますから。この3つの要素が影響しあって、更年期障害が強くなったり弱くなたったりする訳です」。
症状がひどく出てしまう人には、ホルモン以外の理由があるというのが野末医師の持論だ。そういう意味で、減ってしまったホルモンを補うだけで、全員がすぐに治るという単純なものではない。
「だから診察の時には、その人の悩みを聞いて、その人にはどういう解決法があるのかを一緒に考えるようにしています。更年期障害の大部分は体の問題なんだけれども、結局は心の問題が解決しないとダメなんです。心の問題を聞き出してあげるだけで、自分なりに解決するメドが立つんですよ。そうやって患者さんの役に立てることが第一と私は考えています。婦人科は女性が健康を相談できるところですから、何か気になる症状があれば門をたたいてほしいのです」。